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やりたいことや欲しいモノは、この世に無限にあります。
もっと本を読みたいし、映画も観たい。友達と遊びたいし、家族との時間も大事にしたい。仕事もちゃんとやりたいし、健康のために運動もしたい。
ところが、私たちの時間とお金は有限です。そのせいで「足りないもの」にばかり目が向くと、判断力や心の余裕が削られてしまいます。
行動経済学では、こうした状態を「欠乏」の問題として扱っています。
お金が足りないとお金のことばかり考えてしまうように、時間が足りないと感じる人は、時間のことばかり気になってしまうわけですね。
この記事では、休んでいるはずなのに頭の中では仕事や予定がちらつき、自由時間を自由に感じられなくなる状態を、便宜上時間ノイズと呼びます。
時間が足りない原因とは?
そもそも、なぜ私たちはこんなに時間が足りないと感じるのでしょうか。
たとえば、何もせずに5分間だけじっと座っていると、かなり長く感じます。ところが、脱出ゲームの残り5分は一瞬で終わってしまいます。
つまり、時間の長さは時計だけで決まるわけではありません。焦り、選択肢の多さ、同時進行、通知、未完了のタスクなどによって、同じ1時間でも「足りない」「奪われている」と感じやすくなります。
時間利用の研究では、人は自分の労働時間を実際より多めに見積もりやすいことが示されています。ただし、「誰でも週20時間以上多く働いていると思い込んでいる」とまでは言い切れません。BLSの研究では、平均的なズレはおおむね週2〜6時間ほどでした。一方で、自由時間については、日記式の調査では週35時間以上ある人でも、本人の感覚では週20時間未満と答えやすいというデータがあります。
つまり問題は、「本当に自由時間がゼロなのか」だけではありません。自由時間が細切れになり、気づかないうちに通知や迷いで汚染されてしまうことも大きいのです。
時間ノイズのメカニズム
時間ノイズは、だいたい次のような流れで起こります。
- 現代人は、仕事・趣味・SNS・動画・ニュースなど、選択肢が多すぎる
- 選べるものが多いほど、「選べなかったもの」も増える
- 焦って、いろいろなことを同時に進めようとする
- マルチタスクで集中力が分散し、体験の質が下がる
- その結果、「いろいろやったのに満たされない」という感覚だけが残る
これが、時間ノイズの正体です。
もちろん、忙しさには現実的な事情もあります。育児、介護、長時間労働、家事、通勤など、単なる思い込みでは片づけられない問題もあります。ただ、それでも「時間の感じ方」を整える余地はあります。
1. 「そんなに忙しくない」とつぶやく
最初の対策はシンプルです。
「自分は、思っているほど忙しくないかもしれない」と、いったんつぶやいてみてください。
これは、現実逃避ではありません。焦っているときの脳は、時間の足りなさを大きく見積もりやすいからです。実際、仕事時間は実際より多めに、自由時間は実際より少なめに感じやすい傾向があります。
「忙しい、忙しい」と言い続けるほど、脳はさらに時間がない証拠を探しはじめます。だからこそ、まずは一歩引いて、こう言ってみるのです。
自分は今、時間がないと感じている。けれど、本当に1分も余裕がないわけではない。
この一言だけでも、時間ノイズに飲み込まれる勢いを少し弱められます。
2. シングルタスクを徹底する
時間ノイズの大きな原因は、マルチタスクです。
たとえば、テレビを見ながらSNSを開く。メールを確認しながら資料を作る。スマホを見ながら食事をする。音声配信を聞きながらニュースを読む。
一見すると効率的に見えますが、実際には脳が細かく切り替え作業をしています。この切り替えにはコストがかかり、ミスや疲労感が増えやすくなります。心理学の研究でも、タスクの切り替えは生産性を下げる可能性があるとされています。
また、メディアを頻繁に同時利用する人ほど、不要な情報を無視する力や注意のコントロールが弱い傾向も報告されています。
だから、まずは1つずつ、シングルタスクで取り組んでみてください。
- 食事中は食事だけする
- 読書中はスマホを見ない
- 仕事中は通知を切る
- 動画を見るなら動画だけ見る
- 散歩中は音声を止めて歩く時間も作る
シングルタスクについては過去にも特集してるので興味があればどうぞ。
3. 一日の予定を1〜3個にする
予定を詰め込みすぎると、それだけで時間ノイズにさらされます。
「朝は運動して、仕事を進めて、勉強して、買い物して、友達に返信して、部屋も片づけて、夜は読書もしたい」
こうなると、まだ何も始めていない段階で疲れます。
目標がぶつかり合うと、人は時間が足りないと感じやすくなります。デューク大学などの研究では、複数の目標が衝突していると感じるほど、時間的な圧迫感が強まり、その背景にはストレスや不安が関係していることが示されています。
そこでおすすめなのが、一日の予定を1〜3個に絞ることです。
- 今日ぜったいに終わらせたいことを1つ
- できれば進めたいことを1つ
- 余裕があればやることを1つ
このくらいで十分です。
「3つまで」という数字は絶対の科学法則ではなく、あくまで僕の経験則。ただ、選択肢を減らすほど、脳は目の前の行動に集中しやすくなります。
4. グリーンエクササイズをする
個人的にかなりおすすめなのが、グリーンエクササイズです。
グリーンエクササイズとは、自然の中で体を動かすこと。公園を歩く、川沿いを散歩する、木の多い道を走る、庭やベランダの植物を眺めながら軽くストレッチする。こういったもので十分です。
自然との接触は、メンタルヘルス、血圧、睡眠、認知機能などと関連することが多くの研究で報告されています。自然を使った介入研究でも、気分やストレスの改善が見られるものが多くあります。ただし、「唯一間違いないストレス解消法」と言い切るよりは、エビデンスが比較的厚い有力な方法、と考えるのが正確です。※5
目安としては、まず5〜10分でもOKです。可能なら20〜30分、週に何度か外に出るだけでも、時間に追われる感覚がやわらぎやすくなります。
ポイントは、運動の強度よりも「自然の中にいる感覚」を取り戻すことです。
5. マインドフルネスをする
時間ノイズは、意識が過去と未来に飛び回っている状態でも起こります。
「さっきのメール、変じゃなかったかな」
「明日の予定、間に合うかな」
「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」
この状態では、たとえ30分の自由時間があっても、心はまったく休まりません。
そこで役に立つのがマインドフルネスです。カリフォルニア大学デービス校の研究では、現在の体験に注意を向ける傾向が高い人ほど、ストレスホルモンであるコルチゾールが低い傾向が報告されています。
やり方は簡単です。
- 背筋を軽く伸ばす
- 目を閉じるか、視線を少し落とす
- 鼻から吸って、ゆっくり吐く
- 呼吸の感覚だけを観察する
- 考えが浮かんだら、「考えているな」と気づいて戻る
最初は2分で十分です。慣れてきたら5分、10分、20分と伸ばしていけばOKです。
マインドフルネスをすると、時間がゆっくり流れるように感じることがあります。それは「本来の時間に戻った」というより、散らばっていた注意が今に戻ってきたサインです。
6. デジタル断食をする
最後は、デジタル断食です。
スマホ、パソコン、SNS、動画、ニュース、通知。これらは便利ですが、時間の感覚をかなり細かく分断します。
デジタル機器から離れた旅行についての質的研究では、最初は不安や落ち着かなさが出る一方で、しだいに自由さや周囲とのつながりを感じる人もいることが報告されています。まぁ、これは少人数の旅行者を対象にした研究なので、すべての人に同じ効果があるとは限らないのですが、試してみる価値はありそうです。
また、スマホが目に見える場所にあるだけでも、使っていなくても認知資源が削られる可能性が示されています。つまり、スマホは「触っている時間」だけでなく、「そこにあるだけ」でも集中を邪魔することがあるわけです。
いきなり48時間スマホを断つ必要はありません。まずは次のような小さな実験で十分です。
- 食事中はスマホを別の部屋に置く
- 寝る30分前はスマホを見ない
- 午前中だけSNSを開かない
- 散歩中はスマホをカバンに入れる
- 休日の半日だけ通知を切る
慣れてきたら、12〜48時間のデジタル断食に挑戦してみるのもありです。
大事なのは、スマホを悪者にすることではありません。自分の時間の主導権を、少しだけ取り戻すことです。
恒例の「一歩先をゆくスキルが身につく書籍紹介」のコーナーです。
今回は、時間のプレッシャー対策に役立つスキルが身につきそうな本をご紹介します。
いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学
「時間が足りない」「お金が足りない」という欠乏症感覚が、僕らの人生をどれだけ不幸にしているか教えてくれる本です。
いますぐ試せる解決法を教えてくれる本ではありませんが「時間が足りない感覚ってどれだけ脳に負担なんだろう?」という理解を深めるのに役立つかと。kindleなら価格も安いですな。
限りある時間の使い方
「人生は4200週間しかないんだぞ」という主張にはじまり、その尊い時間をどのように過ごせばいいのか、逆にどのように過ごすと焦りや不安が爆上がりしてしまうのか解説している本。
軽快な語り口調の翻訳が読みやすいので、読書慣れしてなくても読みやすい一冊です。
エッセンシャル思考
自由な時間をつくるためにもっともインパクトがある行動は「ムダな時間を見つけて減らす」ことですが、それが苦手なら「エッセンシャル思考」がおすすめ。
そもそも、ムダな時間ってどうやって見つけるんだろう?見つけたとして、どうやって減らすんだろう?という基本的なことはもちろん「じつは本当に削らなきゃいけないのはムダな時間じゃなくて…」という不都合で残酷な真実まで突きつけてくる良書です。
- Sendhil Mullainathan & Eldar Shafir『Scarcity: Why Having Too Little Means So Much』
https://www.hks.harvard.edu/centers/cid/publications/books/scarcity-why-having-too-little-means-so-much - John P. Robinson et al.「The overestimated workweek revisited」BLS Monthly Labor Review
https://www.bls.gov/opub/mlr/2011/06/art3full.pdf - Ophir, Nass & Wagner「Cognitive control in media multitaskers」PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.0903620106 - Etkin, Evangelidis & Aaker「Pressed for Time? Goal Conflict Shapes How Time is Perceived, Spent, and Valued」Journal of Marketing Research
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1509/jmr.14.0130 - Jimenez et al.「Associations between Nature Exposure and Health: A Review of the Evidence」International Journal of Environmental Research and Public Health
https://www.mdpi.com/1660-4601/18/9/4790 - UC Davis「Mindfulness meditation associated with lower stress hormone」
https://www.ucdavis.edu/news/mindfulness-meditation-associated-lower-stress-hormone - Cai et al.「Turning It Off: Emotions in Digital-Free Travel」Journal of Travel Research
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0047287519868314 - Ward et al.「Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity」Journal of the Association for Consumer Research
https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/691462

